2017年度
大学院・学部共修「比較政治」



1. 授業の目的と概要

【概要】


この授業では、おもに先進諸国の政治と政策を体系的に比較し、現代政治を分析する視角と日本に関する深い理解を獲得することを目指します。なぜ平等を重視する国と市場の自由を重視する国に分かれているのか? グローバル化は各国にどのような影響を与えているのか? 雇用や社会保障のあり方はどう異なるのか? すべての国で極右政党が伸張しているのか? 少子化が進む国とそうでない国の政策の違いは何か? 環境問題への取り組みはなぜ異なるのか? これらの問いを、政治制度、労使関係、政党システム、社会運動、リーダーシップといった政治学の分析視角を用いて検討します。

【到達目標】


(1)先進国の政治経済の基本構造を理解し、その中で日本の特徴、長所と問題点を把握すること。

(2)比較を通じて政治学の分析方法に習熟し、それらを用いて現代のトピックを分析できるようになること。

【方法】


毎回の105分の講義を二つのパートに分け、およそ50分を1セッションとします。前半はレジュメとパワーポイントを用いた講義を行い、後半は講義に加え、あらかじめ用意した討議事項についてのグループ・ディスカッションを行い、理解を深められるようにします。

【他の授業科目との関連】

基礎科目「政治学」「政治史」「政治思想」の内容を踏まえ、諸外国の現代政治に焦点をあわせた内容とします。ただし、これらの授業を一部しか受けていなくとも理解できるよう配慮します。また「社会政策」などの隣接分野とも関係があります。


2. 成績の要件

(1)通常点(30点)

毎回の授業では、リーディング・アサインメントと討議事項を用意します。これらの準備を前提として、講義のなかでグループ・ディスカッションを行い、その結果を授業の最後に提出すれば10点、不定期で計3回(=30点)。

(2)書評もしくはグループワーク(20点)

第8回(5月2日)までに書評を提出、もしくはグループ発表を選択。
書評の場合は、書評リストのうちから1冊を選び、1500字以上の書評をmanabaに提出。
グループ発表の場合は、希望者のうちから2名のグループをこちらで指定(×3〜4グループ)。ケース・スタディとして、具体的な政策を一つ選び、日本を含む複数の国を比較。10分間で発表。

(3)学期末レポートもしくはグループワーク(50点)

授業の内容に関連したトピックを一つ選び、政治学の分析手法を用いた政策比較に関するレポートを執筆、もしくはグループ発表。レポートは4000字以上、書き方は授業の中で指示。グループ発表は希望者から2〜3名のグループをこちらで設定。パワーポイントを用いた15分の報告。manaba上でTAと教員がコメントを付けて評価する。

評価の基準
@先進諸国を取りまく環境変化の中で選んだ政策を位置づけ、その重要性を説明できているか。
A各国の対応の違いを資料の調査を踏まえて明らかにできているか。
B政策の違いをもたらした要因を、比較政治学の方法を用いて分析できているか。

以上の合計で60点を合格の目安とし、それ以上は相対評価とします。


3. スケジュール

【授業の内容】


 第1部では、先進国の政治を大きく「レジーム」という観点から比較し、現在までの違いを検討します。第2部では、政策トピックごとに各国の違いとその背景を比較検討します。また各回ごとに政治学の概念や方法を決め、事例分析をつうじてそれらを習得できるよう配慮します。

@4月7日(金) 比較政治学とは何か
内容 授業のオリエンテーション、比較政治学のイントロダクション、問題の所在
参考文献 久米ほか『政治学』序章、建林ほか『比較政治制度論』第1章
A4月11日(火) 戦後レジーム
内容 先進国の政治のとらえ方、ブレトンウッズ体制とフォーディズム→「レジーム」という概念を理解する
アサインメント 新川ほか『比較政治経済学』第1章
参考文献 田中『福祉政治史』9-17頁、41-46頁
B4月14日(金) 戦後レジームの分岐(1)
内容 イギリスとスウェーデンの戦後レジーム、分岐の要因→労使関係とコーポラティズム、政党システムの違いを理解する
アサインメント 久米ほか『政治学』第23章
参考文献 新川ほか『比較政治経済学』第4章、田中『福祉政治史』47-55頁、75-84頁
C4月18日(火) 戦後レジームの分岐(2)
内容 ドイツと日本の戦後レジーム→日本の特徴と位置づけ
アサインメント 宮本『福祉政治』第3章
参考文献 飯尾『日本の統治構造』第3章、新川ほか『比較政治経済学』第8章、田中『福祉政治史』85-104頁
D4月21日(金) 戦後レジームの再編(1)
内容 1970年代の転換、レジーム再編の比較政治学→新制度論と「経路依存」、政党システムの再編について理解する
アサインメント 新川ほか『比較政治経済学』第9章
参考文献 新川ほか『比較政治経済学』第11章、田中『福祉政治史』109-127頁
E4月25日(火) 戦後レジームの再編(2)
内容 イギリスの新自由主義改革、第三の道→議院内閣制(ウェストミンスターモデル)の特徴を理解する
アサインメント ブレア「第三の道」
参考文献 田中『福祉政治史』143-155頁
F4月28日(金) 戦後レジームの再編(3)
内容 スウェーデン、ドイツの改革 → 政党システムの再編を理解する
アサインメント 網谷ほか『ヨーロッパのデモクラシー』2-27頁
参考文献 田中『福祉政治史』157-186頁
G5月2日(火) 戦後レジームの再編(4)
内容 日本型レジームの改革 → リーダーシップが機能する条件について理解する、学生のケース・スタディ
アサインメント 田中『福祉政治史』199-219頁
参考文献 宮本『福祉政治』第4、5章、中北『現代日本の政党デモクラシー』
H5月9日(火) グローバル化と格差
内容 グローバル化は格差を拡大させるか? → アメリカの金融主導型レジーム
アサインメント OECD『格差拡大の真実』26-30頁、34-51頁
参考文献 田中『福祉政治史』224-233頁、Jacob S. Hacker and Paul Pierson, "Winner-Take-All Politics: Public Policy, Political Organization, and the Precipitous Rise of Top Incomes in the United States", Politics and Society, 38(2): 152-204(http://www.kysq.org/docs/Hacker.pdf)
I5月12日(金) 雇用政策
内容 雇用政策をめぐる分岐、日本の対応→資本主義の多様性、ワークフェアとアクティベーションの違いを理解する
アサインメント ホールほか『資本主義の多様性』25-51頁
参考文献 田中『福祉政治史』235-250頁
J5月16日(火) 少子化と家族政策
内容 脱家族主義への政策、日本の対応→比較社会運動論の「政治的機会構造」という概念について理解する
アサインメント タロー『社会運動の力』131-154頁
参考文献 田中『福祉政治史』250-262頁
K5月19日(金) 排外主義と移民問題
内容 排外主義の違い、その要因→右派ポピュリズムについて理解する
アサインメント 水島『ポピュリズムとは何か』から抜粋
L5月26日(金) ケース・スタディ
内容 授業のまとめ、学生によるケース・スタディ


【授業時間外の学習(求められる予習・復習の内容)】

リーディング・アサインメント30分、討議事項への準備30分、復習30分。


4. その他

【受講生に対するメッセージ、他】


政治・経済・社会を横断する高度な内容ですが、講義とディスカッションをつうじて、一人一人が日本と世界の将来について、自分なりのビジョンを持つことができるよう努力したいと思います。